場面緘黙(かんもく)症のお子さんの学校生活の困りごとと親の関わり方

学校で場面緘黙症のお子さんには時々出会います。

500人に1人ぐらいはいらっしゃるそうです。

親や周囲の関わり方の大切なポイントはお子さんの 不安を和らげ、安心感を持ってもらうことです。

 

この問題は、決して「お子さんのわがまま」や「親御さんの育て方のせい」ではありません。

お子さんに何が起きているかそして何が大切か見ていきましょう。

 

 

〇場面緘黙症とは?

 

場面緘黙症とは、家庭では話せるにもかかわらず、学校などの「特定の社会的状況」では、一貫して話すことができなくなる不安障害の一つです。 

 

 

〇親や大人の関わり方の視点

 

①緘黙のお子さんは話さないのではなく、話せない

家では話せるのに、特定の場所(学校など)で話せなくなる。

これは、お子さんが自分の意志で話さないのではなく、体が話せない状態になっているのです。

 

 

人間の体は本当によくできています。

過度な不安や恐怖は、脳に備わった「闘争・逃走反応(Fight-or-Flight Response)」を過剰に働かせます。

学校という環境が脳が「危険な場所」と認識すると、非常ベルが鳴り響いた状態になります。

 

 

非常ベルが鳴っているときは、会話よりも危険に対する「戦い」や「逃走」に備えるため、筋肉を緊張させる必要がありますよね。

 

 

あるお子さんが

「のどが詰まったようになり、声が出せない」

と話していたのは、まさに声帯周辺の筋肉が極度の緊張によって硬直している証拠です。

 

 

お子さんは、体全体で危機に立ち向かっているといえます。

 

 

 のどが詰まったように声が出ないのは、お子さんが自分の意志で拒否しているわけではなく、体が勝手に防衛反応を起こしている証拠です。

声を出す機能よりも、「今を生き延びること」を最優先しているのです。

 

 

②「学校に行けていることに安心しない」

 

緘黙のお子さんは“不登校になりにくい”ともいわれています。

それは身を守る方法を既に実践しているから、学校には行くことができるということのようです。

 

でもそれは、お子さんは常に非常ベルが鳴っている学校にいるということ

“常に身を守っている”

ということになります。

 

学校に行っているからいいという問題ではないのです。

 

 むしろ、このような状態にいるお子さんの心は大きな負担がかかっているでしょう。

不登校のお子さんよりもむしろ心配だなと感じます。

 

③学校は声の大きい人が優遇されるところといえる

 

緘黙のお子さんは、授業中に発言せずとも、静かに座っているため、学校からは「手がかからない子」として見過ごされやすい面があります。

配慮は必要ですが、問題行動がないため放置されがちです。

 

 

話さないだけで日常生活には支障をきたしていないからと思われているかもかもしれません。

 

 

でもそれは「大人目線」です。

 

 

お子さん目線で考えてみれば学校という、積極的な声の大きい人が優遇される場で

(そうでない学級ももちろんあります)

意思を表現しないのです。

きっといろんなことが、不本意な形で進んでいるでしょう。

 

 

さらに興味本位で

「なぜ話さないのか?」

悪意に満ちて

「『アー』といってみて?」

など詰め寄られています。

 

 

驚くべきことは、教師の中でも

「挨拶だけでも、いいましょう!」

と、強制している人もいます。

 

 

 

そもそもお子さんは生活に支障をきたしているから話せないのです。

 

 

〇場面緘黙症のお子さんの親の関わり方:3つの原則と具体的な行動

 

【原則 1:まず「非常ベルを止める」ことを最優先に】

お子さんの関わりで最も大切なのは、

「不安を和らげ、安心感をもってもらうこと」

です。

お子さんにとって、今いる場がどのような状態か

(非常ベルが鳴り響いていないか)

を確認し、非常ベルを止めることを目指しましょう。

 

【原則 2:「話す」ことにこだわらず、コミュニケーションを最優先に】

その上で、「人と話したい」というお子さんの意思が芽生えることを目指します。

これは、コミュニケーションするためのスタート地点に立つ、というイメージです。

大切なことは「話すこと」ではなく、相手とコミュニケーションをとることです。

どんな方法でもいいのです。

 

話す以外のコミュニケーション方法の例

  • 筆談 
  • ジェスチャー・身振り 
  • 「はい」「いいえ」で答えられる質問(クローズドクエスション)
  • うなずき 
  • まばたき
  • ゆびさし

 

【原則 3:専門家との連携を】

不安の解消には、個々によってアプローチが違います。

不安が強いお子さんに無理強いはできませんが、 場面緘黙症については、早期の医療介入が有効というデータもあります。

お子さんにとって一番いいタイミングで、専門家とつながることをおすすめします。

 

 〇最後に

 

私自身、緘黙のお子さんとの関わり方については本当に試行錯誤の連続で、小さな反応を一生懸命探していました。 でも、数年後に再会したお子さんが「先生!」と駆け寄ってくれた時は、本当にうれしくて・・。素敵な優しい声でした。

 

この経験から、大切なことは「話をすること」ではなく「気持ちをつなぐこと」だと強く感じています。

 

ゆっくりそっとお子さんに寄り添いましょう。

 

この記事は、公認心理師・看護師の資格に加え、養護教諭として28年間にわたる経験を持つカウンセラーが、

お子さんとご家族に寄り添う確かな視点をもって執筆しています。

にじいろたまごは、お子さんの心の安心を一番に考えています。

記事の内容に関する一般的なご質問は、このコメント欄にお気軽にお寄せください。

ただし、個別の状況に関する詳細なご相談は、個別相談をご利用くださいね。

 


その他関連記事

場面緘黙(かんもく)症